077052 ランダム
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Lee-Byung-hun addicted

Lee-Byung-hun addicted

第3話

コタツにみかん 第三話


「なんかこの人どっかで見たことあるんだよね・・」
花やしきの管理事務所。
アルバイトを管理する主任の高橋はビョンホンの周りをゆっくりと回って彼をジロジロと見つめながら言った。
「そ、そうですか?気のせいだと思いますけど・・」揺が横から口を挟んだ。
「そう?」
「そうですよ」
「そうかな。ま、人手は足りなくて困ってるから助かるんだけど・・。でダンスとかできるんだよね。」
「へ?」
「ダンス。着ぐるみ着て踊ってもらうんだけど・・。聞いてないの?久美ちゃんから」
「あいつ・・・」揺はムッとしてつぶやいた。
「で・・・できるの?」
「あ・・大丈夫です。この人踊れますから。」
「え?」
ビックリしたようにビョンホンが揺を見た。
「そう。じゃ、ちょっと踊ってみてよ。」
高橋が言った。
「踊ってって・・」
揺はそういうと彼をひじでつついた。
彼は軽くため息をつく。
そしてにやっと笑った。
狭い事務所のちょっとしたスペースに移動すると思い切ったように切れのいいブレイクダンスを踊り最後にご丁寧にテコンドーの回し蹴りの型を披露した。
「スゴイスゴイ!いやぁ~犬にしておくには惜しいなぁ~」
高橋は感激したように叫んだ。
あんまり目立つ役にされては大変だ・・揺は慌てて言った。
「彼、極度の恥ずかしがりやですし・・犬で充分ですから・・」
「そう?そうかな。恥ずかしがりやのダンスとは思えないけど・・」
「いえいえ、実は本番に弱くてですね・・」
いろいろ言い訳をして慌てる揺の横でビョンホンはニヤニヤ笑っていた。


「大丈夫かな・・」
揺はローラーコースターの安全ベルトをチェックしながら彼の心配をしていた。
「調子に乗り過ぎないといいけど・・」


「いやぁ~凄いですよね。何だかアクションの身体のキレが違うし・・そのせいかストーリーも迫力が出て凄く面白くなりましたよね・・何か武道とか長くやってるんですか?カッコイイなぁ~。僕もずっと芝居やってるんですけど・・あ、これどうぞ」
ビョンホンは一緒の舞台に立っていた猫の青年から缶コーヒーを差し出された。

「いい?ビョンホンssi・・だれがあなたのこと知ってるかわからないからやたらに着ぐるみはとらないこと。約束よ。わかった?」
揺と別れるときに言われた言葉を思い出す。
彼はぬいぐるみをかぶったまま何度も頭を下げてお礼を言った。
「いや、そんなに・・恐縮しないでくださいよ。それより・・脱がないと飲めませんよ。」
猫の青年は笑っている。
(まずいな・・)
そう思った彼は「トイレ行ってきます」と言ってそそくさと立ち上がった。
「次のショーは2時間後ですから・・」
後ろで声がする。
やれやれ・・そう思いながらビョンホンは犬のまま彼に手を振った。
ちょっとやりすぎたかな・・彼はさっきのショーを振り返った。
小さなステージ。
周りを囲む粗末な木製の座席。
そこは小学生の遠足だろうか・・多くの子供でいっぱいだった。
脚本的にはありきたりなストーリーだった。
やっているうちにもっとこうした方が面白がってくれそうだ・・ここはこんな風に飛び回って逃げ回って・・・格闘シーンを入れて・・なんて思ってやっていたらいつの間にか凄い盛り上がって・・・最後はスタンディングオベーションだった。
つい、顔がほころぶ。
俺、何やってるんだろ。・・でも何だか凄く楽しいよ。揺・・
彼は缶コーヒーのプルトップをひいた。
飲もうとして自分がぬいぐるみをかぶったままだったことに気づく。
・・・苦笑いをして周りを見渡す。
誰もいないことを確認する・・・・。
ふと見ると少し離れたベンチに一人の少年が座っている。
泣いているのか・・・。
ビョンホンは犬のまま近づいた。
彼の隣に腰掛けて泣いているはずの彼の肩をトントンと叩いた。
少年が顔を上げる。
そうか俺の日本語で通じるのかな・・彼はその時気づいた。
「ドウシタノ?」泣いているジェスチャーをしながら彼に訊ねた。
「つまんなくって・・」
少年は泣いていなかった。
つまらなそうにベンチに座っていた。
「あ・・さっきの犬じゃん」
彼はそういうとビョンホン犬の耳を引っ張った。
「結構いい動きだったね。こんなしょぼい遊園地のショーにしては面白かったよ」
少年は大人びた口調で言った。
ビョンホンには少年の言葉が完全に理解できたわけではなかったが声のトーンや知っている単語から想像して誉められていることと彼が今退屈しているということがわかる。
「トモダチハ?」
「みんなあんな子供だましの乗り物で喜んじゃって・・くだらないよ。断然ディズニーランドの方が面白いのに・・バカみたい」
「キミハ・・・ノッタノ?ゼンブ」
「乗らなくたってみればわかる。絶対つまらないよ」
少年は首を振りながらふてくされたように言った。
「ヨシ、ボクモマダ。イッショニノロウヨ」
ビョンホン犬はそういうと彼の手をとった。
「待って。お母さんが知らない人について行っちゃいけないって・・」
そうか・・顔も見えないんだっけ。相手は子供だし・・
そう思ったビョンホンは着ぐるみの頭をとった。
「あ・・・・い・びょんほん」
「え・・・・・あ?」






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